祐希を本気にさせるなよ。


 

 

「よぉーっし、わかった!!

 お前が今度のテストで本気出して俺の点数に勝ったらお前の言うコト、何でも聞いてやる!」


 

 

「………………言ったね?」にやり。

 

 学生達が常に頭を悩ませる対象である定期試験。

 特にこの時期の結果は1年後の自分達にとってはかなり重要である。

 そうでなくとも、試験というものはとても重要な学習内容の確認のための有効な手段である。

 そう考えてきた要にとって、祐希の学習態度に関して、常日頃腹立たしいものを感じていた。

 

 そこで。画期的な方法を思いついたのだ。

 作戦は見事に成功、ターゲットは射程圏内だ。


 要するに、今回の作戦とは、
 祐希は“モノ”でつればいい(餌付けした動物のようだが)という
 祐希といれば自然と思いつくなんとも単純な考えに基づいた
(決して要はおばかさんではない。ちょっと気付くのが遅かっただけ、ということだ)
 結構原始的なものであった。


 そしてこれでまんまと祐希が引っかかり本気を出せば、彼自身の為になるのは勿論のこと、
 前々から知りたいと思っていた彼の本当の実力をここで知ることが出来る(決してこれが本来の趣旨ではない)。


 


 作戦は万事成功の方向へと向かっている。

 

 

 

 

 


 要は非常に上機嫌であった。

 試験5日前のことだった。

 

 

 


 その日は特に変化もなかった祐希だったので要は少し不安になったが、
 しかし、その効果は次の日に大きく現われていた。


 

「ねぇ、ちょっと、あの浅羽君が教科書開いてるよー!?初めて見た!!」
「へぇ〜結構浅羽君にも真面目なとこあるんだ〜。」
「やっぱり真面目な姿も様になってるよね〜wカッコいい〜w」


 教室のドア付近で女生徒達(祐希ファンか)が楽しそうに歓声をあげている。


 要は自分のいったことの効力に驚きを隠せず、
 自分の席から立ち上がったまま祐希のほうを見つめて固まっていた。

 すると
「はーっゆっきーどうしちゃったの?いきなり。
 すっげーやる気じゃん。やめてよ〜俺だけ落ちこぼれ〜?おいてけぼりかよ〜。」
 そう言って千鶴が祐希に近づいてきた。

「悪いけど千鶴。俺これから集中するから。ちょっとほっといて。」
「え!あ、はい。わかりました〜。」

 祐希は千鶴を軽くあしらうとまた勉強を再開させてしまった。


 

 

 そしてその日の放課後。

「おい、祐希帰んぞ。」
「いいよ先帰って。」
「は?お前今日なんか用事あったっけか。」
「図書館寄るから。」
「………!!!!!!」

 要はさすがにうろたえにうろたえた。
 ありえなすぎる。ありえなすぎるぞ、この発言は。


 今朝の集中したい発言(通常ならそれはアニメージャを読む際に使われる台詞である) に
 図書館寄って帰るから発言。


 一体どうしちまったんだ…祐希…。

 自分でそう仕向けた割りに驚きが大きすぎるのであった。

 結局一緒に帰れない、と言われれば無理やり待っているわけにもいかなかった要は(何か気持ち悪いし)
 悠太達のいる教室へと千鶴と二人で向かっていた。


 すると千鶴が要に珍しく相談があるんですが、というような顔で話しかけてきた。

 

「ねぇねぇかなめっち〜。何か今日のゆっきー、おかしくねぇ?
 いきなり真面目くさって勉強とかはじめちゃってさ!まるでかなめっちみたいだよ!気持ち悪ぃ〜」
「だぁれが気持ち悪ぃって!?…まぁ、確かに変だよな…俺のせいかな、やっぱ。」
 相変わらず失礼な小猿である。が、しかし自分が“気持ち悪く”してしまった原因である。
 可能性がほぼ確実である要は顔を曇らせる。
「なになに?かなめっちゆっきーに何か言ったの?」
「いやな、ただ、今回のテスト頑張って俺より上の点とったら
 お前の言うことなんでも聞いてやるーって担架切っちまってさ。
 そしたらアイツ、人が変わったように勉強し始めてんだよ。ったく、いつもあれなら文句ねぇのにな。」
 別に言う必要なんてさらさらないのだがものの流れで今回の原因を千鶴に言ってしまった。
「 ふわ〜。そりゃ間違えなくゆっきー本気になるわ。」
 そう言うと千鶴は偉く納得した様子で頷いた。
「何で。別にそこまでのことじゃねぇだろ。」
 ていうかむしろあぁやって勉強してるほうがいいよなやっぱ(気持ち悪いけど)、と要は自分の中で納得する。
「いやいやいや!!だって“何でも”ってことはかなめっちが普段見せないいろんな姿見られるわけでしょ〜?
 どんな恥さらしな格好させるか絶対期待しちゃうもん。」
「恥さらしだとっ!?そりゃ一体どんなことだ!!」
 要は千鶴の発言にかなり動揺した。
「まぁ色々。ねぇ?ぐふっwそれにもしそれがすげーw好きな子wだったら男ならあられもない姿にさせてやるーっと
 意気込むのは当然の話ですしね!だはっだははははwま、かなめっちじゃ無理だけど〜」
「悪かったな!!」

 

 待てよ?だとするとまさかアイツ…
 思わず要の首筋に冷や汗が垂れる。

 

「ん?どしたのかなめっち。急に下向いちゃって。あ、わかった!自分の色気のなさに落ち込んじゃった?
 ごめんね〜ちぃさま要君がそんなにウブな子だとは思ってなくって〜ごめん遊ばせ〜w
 ………ってかなめっち?かなめっちってば!!返事くらいしろよ!!」
「わりぃ、千鶴っ用事思い出した!!先春達と帰ってくれ!!」
「え、ちょっとかなめっち?久しぶりに千鶴って呼んで…じゃなくてっえっ?ちょ、ちょっと〜!?」


 要は走りながらも先ほどの千鶴の発言から思考を進めていく。
 これはマズイ。非常にマズイ。このまま千鶴の言うように祐希が俺にあんなことやそんなことをすることを
 考えて勉強しているのだとしたら!!非常にマズイ!!(ていうか、俺の体が危ない)
 ちくしょ〜、あったとしても「雑誌買って。」だの「フィギュア買って」だと思ってたのに!!
 そこまでは予想してなかった〜くそ〜待ってろよ祐希…!!
 考えれば考えるほど自分が碌な眼にあわないと来ている。


 

 要はただひたすら(自分の体を守るため)祐希のいる図書館に走った。


 

「おいっ!!祐希!!いるか!!!!」
 大声をあげながら(不謹慎だが、この際もう気にしていられるような状況ではない)ずかずかと入っていくと、
 誰もいないようだったがぽつんと座っているものが一人いた。
 それは祐希で、隅のほうの席に座っていつものように窓の外を見る様子もなく
 何かを真剣にノートに写しているところだった。
 しかし祐希は姿は見えるものの、要の大声にまったく反応する素振りを見せない。
 要は仕方なく祐希の隣の席に陣取ると耳元で大声を上げて名前を呼んだ。
「ゆ―――――――――きぃ―――――――――!!!!!!」
 するとさすがに普段から声の大きめな要の声がさらに大きくなっているため激しく鼓膜が振動し、
 今にも破けそうになったのか祐希は叫ばれたほうの耳を抑えながら
「ちょっと、ここどこかわかってんの?」
 と怪訝そうな顔で言った。
 要から言わせればそっくりそのままの言葉をいつものお前に返してやりたい、と思う。
 いつもの千鶴と所構わず騒ぎ回り、自分に迷惑を散々かけて平気そうな顔でいる祐希に。
 しかし、今はそれどころではない。 

「おい、祐希。今すぐ勉強やめて家帰ってゲームしろ」
「は?」
「だから、もう勉強しなくていいつってんの。」
「いや、俺もう勉強の楽しさに気付いちゃったから」
「嘘つけい!!!“あの時”俺が言ったこと、アレのせいでお前そんなに必死なんだろ?」
「だって要が何でもしてくれるって…」
「じゃあ今から変更だ!!何でも好きなもの、“買って”やる。」
「やだ」
「っ!!」
 珍しく祐希の眼が本気だ。怖すぎる。
 こうなった祐希は誰にも手がつけられないのを要は知っていた。
 

「なぁ祐希じゃあこうしよう、お前が…」
「だから、やだってば。」
「はぁ…」
 もう無理だこれ以上いくら抗っても無駄だ。
 要はあっさりと完敗した。
「俺、せっかく要に抵抗せずいただかれてもらうチャンスだと思ったのにさ」
 やっぱり。と要は改めて自分の予測能力を褒め称えた。
「どうやってでも俺は抵抗するぞ」
「“何でもする”って言ったじゃん。それに初体験が“強姦”じゃやでしょやっぱ。」
 祐希が言うと見る見るうちに要の顔が紅潮していく。
「テメェーなぁ!!」
「というわけで要さん」
「あ?」
「可能性が低いとはいえ、男のロマンをかけて俺は勉強してるんで、止めないでやってください。」
 相変わらず勉強しても言ってることが相変わらず理屈が通っていない。
「あーもう!!わかった。じゃあ、俺が、お前に負けにないように勉強すりゃいいだけの話だもんな!
 やってやろうじゃねぇか!!」

 
 半ばやけくそになって要は祐希の隣の机の上に勉強道具を出すと、勉強をし始めた。
「何、要さんもここで勉強するの?」
「あぁ、お前がどれくらい勉強するのか見ておかねぇとな」
「二人きりで放課後に図書室で勉強……」
「あ?何だよ…」
「要さんフライングしちゃいましょうか。」
「なっえ、ちょ、おい!!」
 

 そう言うと祐希は要を図書室の机の上に押し倒した。
「おい!!これはテストが終わって、かつ、お前が俺の点に勝ってからって話だろ!?」
「さきに練習、ということで」
「必要ねーよ!!」

 

 


 結局そのまま要は下校時間ギリギリまで祐希に付きあわされてしまったのだった。

 

 

 


 

 

 


テスト終了後。

「あ、要君、テストの結果、廊下に掲示されてますよ?」
「お、そりゃ気になるな…もうあんなことは二度とごめんだしな…」
「え?」
「あ、いいや!なんでもねぇ!!」
「とっとと見に行くよ。」
「うっせーぞ祐希、言われなくてもわぁってるよ。」
「「あ。」」

二学期中間試験結果順位発表

順位  生徒名    全教科総合点(700点中)

一位  浅羽 祐希     689点
二位  塚原 要      685点
      ・
      ・
      ・
「んなぁぁぁぁぁ――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その日穂稀高校には滅多に見れない
優等生の傷悴しきった姿が見られたという…
 

 

 


あとぐゎき。

このサイトで初めてギャグ(?)を書きました。
いかがでしたでしょうか…しらのはもともとギャグしか書けませんが、
何故か君僕。ではほのぼのしか書けないんですね、
しらのの君僕。七不思議のひとつです。

2006/11/28(12/3改稿)       しらのたまこ

 

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