不安なままだって。


 がやがやと人ごみが蠢く土日のショッピングモールの中。
「今日は何買いに行くんですか?」
 と言いつつ要は秋のひんやりとした風を受けて少し冷たそうに自分の息を両手に吹きかけている。
「ん?そうだね、ちょっと冬物の服を買いに行こうと思って。」
 晃一はそんな様子を目を細めて眺めながら言う。
「でも俺なんかと一緒に行ったってつまんないでしょう。女の子じゃないんだから。」
 いきなり休みの日の朝っぱらから晃一からメールが来てどこに行くのかと思っていたら買い物だ。
 何で俺なんかと、という言葉がまさにその後につくであろうという感じの表情である。
「好きな子と出かけるのは何でも楽しいものだよ。」
 そんな態度に少しからかうように晃一が返すと
「……!!あの、恥ずかしいんでやめてください…」
 と頬を赤らめながら要が答えた。
「やめないよ?」
「……・・・;;」
 やはりまだまだ“付き合う”という感覚に慣れていないらしい。
「迷うといけないから手、繋ぐよ?」
「え…」
 じれったくなって先がまだまだ冷たくて赤くなっている可愛い手を握ると
 晃一は人ごみをすり抜けるように歩いていった。


 入ったのはカジュアルめなものが揃うショップ。
 派手さも地味さもないちょうど良い定番な感じのセーターを手に取る。
「どうかなこのセーター。」
「あ、いいと思いますよ。あ、でもコッチの色の方が先生には似合うかも。」
「うぅん・・・あ、青か…そうだね、コッチのほうがいいね。
 あ、コレ、塚原君に似合うんじゃないかな。」
 そういって隣にあった少し形の違うセーターを手に取る。

「そうですか…ね。」
「うんとっても似合ってるよ。買おうか。」
「え、でもそんな…高いじゃないですか。」
 確かに生地もなかいい素材が使われていて、肌触りもとても良かった。

「俺がプレゼントしたいからいいんだよ。」

 要は普段周りでは使わない“俺”の一人称と、“俺が”の強調された口調に
 圧されて何も言えず、結局会計をする姿を横から眺めるしかなかった。


 それからスポーツショップに行ってダウンジャケットを買ったり、
 食器を買ったり、あてもなくその辺の店をうろついたりしている内に空が暗くなってしまっていた。


「さてと。一通り周ったし、何か食べない?」
「あ、はい…て、あ。」
 ぐぅ〜
 間抜けな音を立てて要の腹が鳴く。
「あははホントに空いてるみたいだね、お腹。」
 その様子も可愛くて笑っていると、要の目線が一点に集中した。

 目の前に見えたのは有名ラーメン店のチェーンの店舗の
 デカデカと掲げられた豚骨ラーメンの看板だった。

「ラーメン?」
「あはは…何かホント色気なくて…すいません。」
「うぅん?要君が食べたいなら何でもいいよ。」
「はぁ…」
 見た目からして細身なので大した量は食べないと予想していたのだが
 要やはり育ち盛りの時期ということもあってか、
 晃一と同量、いや、それ以上の量を平らげてしまった。
「ふぅ・・・食った食った。」
「お腹いっぱいになった?」
「あ!すいません、コレぐらいは自分で払いますから…」
 そう言うといそいで財布を取り出し自分の代金を払って
 荷物を持って一足先に店を出ていってしまった。


 俺も、と続いて晃一が立ち上がると
「ご兄弟ですか?」
 店員が晃一の見かけの良さと、話しかけやすい様子を見てか、
 話しかけてきた。
「一応大事な生徒なんですよ。教師をしているもので。」
「そう。随分大人っぽいのね、高校の先生なのかしら?」
「えぇまぁ。あ、あんまり待たせると悪いので・・・」
「はいはい、850円になります。」


 晃一が会計をすませて店の前に立っている要の元まで歩くと
 その後帰り道を歩いている間
 要は何処か寂しそうな目をしていた。


「どうしたの?」
「いえ、別に。」
 嘘だ、言わなくてもわかる。顔を見れば。本当に可愛い恋人だ。
「不安に、なった?」
「・・・・・・・・・」
「恋人って、言って欲しかった?」
 店の入り口はもともと薄いガラス張りの扉だったし、
 会計場所はそのすぐ前だ、聞こえていたのだろう。
「無理だってことは…わかってます。」
「どうして?」

 小さな声で零すように呟く。
「だって恋人だなんて言ったら周りが…て、う、わ」

「ごめんごめん。要君が可愛すぎて抱きしめちゃったよ。」
「何してるんですか!こんな路上で!!周りの人がほら、見てますって!!」
 急に大声になりながら恥ずかしそうに要が喚く。
「周りなんて関係ないよ。
 俺は、要君が嫌がることはしたくなかっただけだよ。
 本当なら買い物してる間もこうやってすごく近くにいたかったんだ。」
「すいません…俺、先生のことは好き…なんですど、やっぱり恥ずかしくって。」
 嫌がりながらも、晃一の肩に顔を埋める。
 そんな要の頭を晃一はあやす様に撫でながら
「いんだよ。少しずつで、それから、二人の時は先生じゃなくて晃一、でしょう?」
 と耳元で囁いた。
「………うん、晃、一。」
 まだ恥ずかしいような様子が残っているがはっきりと聞こえるように晃一の名前呼んだ。
「そう言ってくれるとキスしたくなっちゃうけどきっと嫌がるだろうからやめておくね。」
 今日一日我慢させた仕返しだ、といたずらを仕掛けてみる。
「や…!あ、えと、嫌じゃ、ない、です。恥ずかしいけど。」
「それは“していい”ってコトなのかな?」
「〜〜っ///」
「ふふ、可愛いなぁ、もう。」
「そんなコト…!んんっ」
 否定する前にその唇を塞いで黙らせると
 暗がりの中でもはっきりとわかるくらい真っ赤な顔になった要が
「あの…今度は人のいないところでしてもらえますか?」
 と言った。


「じゃ、今度は俺の家でゆっくり、ね?」

 不安でもいいよ。それが君だから。
 でも、たまにこういうことしてみるのもいいね。慌てて恥ずかしがる君が可愛いから。
 なんて、本人に言ったら叱られるけど。

 あとがぐぁき。

 今回はいつもとちょっと違う感じで書きました。
 出来るだけ甘々にしたつもりなんですが、なったのでしょうか?(書いた本人がそんなんでどーする
 いつも思うのですがしらのの文章には色気がありません(絞りだそうとしてももとからありませんし。
 あぁ…出来れば感想なんかいただけると嬉しいです。はい。
 お読みいただきありがとうございました。 

2006/11/09       しらのたまこ 

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