i NotE tHaT I ・・・・・. 3



 

生徒会主催の行事も無事終わり、取り合えず反省、片付けを終え、
祐希達とは別に、一人で帰っていると、
ちょうど近くの商店街に差し掛かったところで大雨が降ってきた。

 

 
しょうがないので自分のすぐ右にあったスーパーの屋根で雨宿りしながら
「これだけ粒がデカい雨じゃすぐ止まないだろうなぁ」とか
「向かいのコンビニで傘買ってくしかないかなぁ」なんて考えていると
後ろから「あれ、塚原君!」という聞き慣れた、だがあまり聞きたくない声が聞こえた。

 
「あ…東先生。買い物ですか?」
どうやら白い袋に入っているのは野菜やらなんやらで、
同年代の男性の様にインスタントなどに頼ることは到底なさそうだった。
「うん実はね、夕飯の買出しが終わったところなんだ。」
「きちんと料理とかされるんですね。」
「うん。昔からしてたからもうほぼ習慣だしね。あ、ちなみに今日の夕飯・・・何だかわかるかい?」
そう言って俺に向かって少しビニール袋の口を開けて見せた。
玉ねぎに、豚肉、人参と来たら…
「・・・カレー、ですか?」
「あはは、おしいね。シチューなんだよ。急に雨降って来て肌寒いな、と思ったら知らない内に材料がかごの中に入ってたんだ。何だか変だよね。」
「いえ、そんなこと、ないですよ。」
「あはは、そういえば今日は塚原君一人なんだね。」
「え、あぁ、生徒会の反省があったもんで。」
「ご苦労様。」
「いえ、そんな…自分でやりたいと思ってやったこと、ですから。」
「それでもすごく偉いと思うよ、俺は。あ、そうだここで会ったのも何かの縁だし、傘も持ってないみたいだから
このまま家に一緒に来ない?今日は太一、いや、俺の弟と父さん、出かけてるんだ。」
「いや、ご迷惑かけるのはっ」
「そんなことないよ。どうせ一人で飯も食べるつもりだったから、良かったらシチューご馳走するよ?」
「はぁ…」
「じゃ、そういうことで。」

 
良くわからないが気付けば俺は東先生の家にお邪魔することになっていた(何で!)。
何で断らなかったんだ俺…迷惑だってことは分かりきってるはずなのに。
ていうか軽く強引だったし。何でこの人はそこまで俺に関わろうとするのだろう?

 


俺の気持ちなんて結局最終的に裏切るんだから、余計に優しくされたって困るだけだ。

 


そう思いながらもまんまと東先生の傘に入れられている俺…(穴があったら入りたい)。

 

「最近君たち賑やかになったねぇ。」
相変わらずこの人はいたって普通に話題を振ってくる。
「あぁ、小猿…じゃない千鶴でもなくて、橘、ですか?」
賑やかって…どう考えたってもううるさい域に入るだろ、アレは。
「小猿っねぇ、ふふ、そうそう、橘君。彼が来てから今までよりもっと楽しそうになった。」
何を言ってるんだ、この人は。
「今までよりって…今までだって今だってそんなに楽しくないですよ?
(俺はどうせツッコミ役だしな。そもそも3人のボケにムードメーカーが1人、それに俺1人のツッコミなんて大体手に負えなさ過ぎだ)。」
「でも楽しくなきゃそんなにずっと一緒にいないでしょ?10年近くも…ね。」
「はぁ。」
「気付いてないだけで本当は彼達のこと一番気に入ってるの、塚原君なんじゃないかな。」
「そんなもんですかね。」
「そんなもんだよ。」
 

結局勝手にまとめられただけで終わった(はいそうですか、の類の言葉以外に何か言えることがあっただろうか、いや、ない)。
相変わらず人を丸め込むのが上手い人だ。ただそれが悔しい。
だからちょっとここで反撃なぞ仕掛けてみる。

 

「じゃあ、東先生には、一番気に入ってる、ずっと一緒に居ようと思える人、居るんですか。」
「そうだね…いるね、俺にも。」
やっぱり。あの人だろう。この人は昔から何も変わっちゃいない。
「塚原君。」
「はい。」
いきなり立ち止まったと思った瞬間、俺より少し前に出てこう彼はこう言った。

「でも、“誰にも渡したくない”って人とは違うんだ。」

 

「どういう意味ですか。」
「つまり…変わっていくその人を認めることが出来て、その人がまた
自分と違う人を一番に想っていようと構わない、それがその人自身の幸せなんだと理解できる、
それが気に入っている人。 君にとっての彼達、俺にとってのあきらみたいに。」
「えと、その…」
「それから、もうひとつの“誰にも渡したくない人”っていうのは、
その人がいつも自分を見ていなければいけないと思う、自分以外の人を想っていて欲しくないと思う人。

 
 つまり、一言で言えば想い人ってやつかな。」

いつもは温厚な彼が少し遠く感じた。雨の中で冷えていく体と一緒に目の前がどんどん霞んでいった。

 
でもそれ以上に感じたのは

 
彼の眼差し。


 

熱かった。燃え盛るようだった。
そして思った。
彼のこれ程まで強く、今までどうやって押し込めてきたのかわからない想いが誰に向けられているのかと。


 

きっと自分はあの人に似ているからこそ、絶対に違うのだろうと思った。

 

 

あとぐぁき。

あ、雨の日にシチュー食べたくなるのはしらのです。先日の大雨のときもシチュー食べました。
冷えた体が温まるし、おいしいですよね。さぁもう2話く位で終わるはずですよー。

2006/10/26        しらのたまこ

もどる  すすむ