これから先、一体何年こうして同じような行動を繰り返すのだろうか。
割と起き抜けも良く、寝坊することもない。
何と言うか、昔から手の掛からない子供だった。
朝食は適当にトーストと目玉焼きにサラダ。
購入したばかりのテレビで大した興味もない芸能ニュースを眺める。

 

 

 

それでも、思ったほど一人の生活も悪くないと思えてきた。

 

 

 

昔から何かと母親には心配をかけないようにと自立しようと試みて来たが、
いかんせんあの性格だ。何かにつけて心配だ心配だと手を焼きたがった。
それが突然ぴたりとなくなるのはちょっと寂しい気もするが、
これはこれでのんびりしていられるし、やっと一人前になったのだと実感出来る。

 

 

 

熱めのコーヒーをぐっと飲み込みながら朝食を流し込むと、腰を上げた。


 

 


「おっはよー!かなめっち〜。」

 

「はよ。」


 

会社へ向かう途中の公園を横切った辺りで小猿が曲がり角から飛び出してきた。
どうやら小猿・・・もといこの橘千鶴は俺の借りたアパートと割りに近い場所に住んでいるらしく、
「本当は家出たところから一緒に行こうと思ったけど〜そうすると気持ち悪がられそうだからやめた〜」のだそうだ。
確かに家を出たところから友人(であるかどうかはこの際別として)しかも男と一緒に出勤するだなんて結構恥かしいものだ。
女だったら一人より何人かと行ったほうが防犯にもなるし、とかそういう理由にもなる気がするが、
残念ながら俺は生まれながらにしてれっきとした男であった。

 

 
これといった交通手段を利用するわけでもなく、徒歩出勤をとっていたので
同じく徒歩出勤である橘千鶴の隣でひょこひょこと揺れる肩がちょっと鬱陶しい。
学生の頃はよくこうして友と肩を並べて歩いたものだが、いざ社会人ともなるとこれほど自分の中の常識が変わるとは思ってもみなかった。
短くも長い20分ほどの間に途切れることなく続けられるキャンキャンと高いどこか子犬にも似たお喋りに付き合わされた俺は
無事到着するまでに体力ゲージの60%くらいをガリガリに削られていた。

 
 

 

 

 

 

今日は改めての業務内容の軽い説明を受け、後は実際の雑用事務をこなすという感じだった。
昔から性格上中途半端は嫌いな性格なので雑用の仕事も一切手を抜こうとは思わない。
それにこういう仕事も嫌いではない。
学生の頃にやった生徒会の仕事も大体こんなような内容ばかりで、目立つ仕事というのは年に一度か二度くらいのイベントの企画程度だったし。


 

 

「いやー塚原君は仕事も出来そうだし顔も綺麗だからモテるよ〜」


 

 

 

人の良さそうな男性上司からのからかいには流石にちょっと苦笑いしてしまったが、雰囲気としても悪くなさそうだ。
橘千鶴も仕事は人並みにはちょっと及ばないが、持ち前の人懐っこさで速くも溶け込んでいるようだった。


俺はあぁ言ったおふざけというものが好きではないし、どちらかというと人とそれなりの付き合いをするのには結構な時間がかかる方だ。
だから友人にも長い付き合いでお互いの性格を理解しきっているヤツが多いし、上辺だけの付き合いの連中には絶対に隙を見せたりしない。

 

 

  

 


 
俺の表面しか知らないものにとっては俺は大層つまらない人間だと思うだろう。でもそれでいい。
いつどこにいたって俺は俺であって、他の人間とは関わらずに最低限一人で生きて来たつまらない人間なのだから。

 

 

「・・・・かはら、くん。・・・つかはらくん。・・塚原君?」


「えっ?」


 

 

 

 

そんなくだらないことを考えていたらしばらく周りの声が聞こえていなかったようだ。
見っともないな、全く。


「しばらくぼーっとしてたからてっきり具合でも悪いのかと思ったよ。大丈夫?」


振り返って見ると昨日の好青年・・・・東さんが俺を覗き込むように見ている。


「え、あぁ!いや、なんでもないですよっあははは・・・・」


そんな綺麗な顔をこれでもかと見せ付けてくれるな・・・・!
心なしか顔が熱くなっていく自分がますます恥かしい。何男に赤面してんだこの阿呆。


「そう?大丈夫そうなら良かった。改めて東晃一です。よろしくね、塚原君。」


「はぁ・・・」

 

 

握手、とでも言いたげに手を差し伸べてきたので何となくそれを握り返す。
俺よりも少し大きめで指は細くて少し骨っぽいが、ガッチリしている。
大人の男性の手、というのはこういう感じなのか。
俺の手は元々男の割りに肉が厚いのかぷよぷよしているし指にはペンだこが多い。


  


「塚原君の手って思ったより柔らかいね。今握って吃驚しちゃったよ。」

 

「昔からスポーツとかあんまりやってなくて、どっちかっつぅとインドア派のガリ勉って感じだったんで。」


 

 

そう言うと、それにしても綺麗な手だね。とあの爽やかな笑みを浮かべていた。
こういう過干渉っぽい人間は苦手だ。
そういう顔でこちらを見られても何をしていいのかわからない。
笑おうとしてもぎこちない表情しか出来なくてまた笑われてしまう。


 


「そういえば今日改めて新入社員歓迎会やるらしいよ。塚原君も行くよね?」


 

 

 

 

 

 

そして俺は良くも悪くもアイツと再び出逢うことになるのだ。

 

 

 

 

 

 

こっそり。

要の手の特徴のマイ設定は白乃と同じです。肉が厚くてぷよぷよしてて指が太くてペンだこがあります。
要のはちょっと女の子っぽい感じが出したかっただけなんですが、自分の手はどちらかというと原始人寄りです(笑

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